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初期太陽系における地球型惑星の材料物質の進化を解明: 地球質量の半分を占めるケイ素と酸素の同位体組成からの証拠



<背景>

太陽系の惑星は、約46億年前、ガスと塵からなる原始太陽系円盤から形成されました。原始太陽系円盤が冷却するに従い、微惑星が形成され、これらが衝突や成長を繰り返し、やがて地球を含む惑星が形成されました。始原的隕石には、このような初期太陽系で形成された塵や微惑星のかけらが含まれていることから、これらを分析することにより、惑星の形成過程や、惑星を構成する物質の化学組成を実証的に知ることができます。

図1:原始太陽系円盤の内側における、微惑星形成モデル。上図は、核合成起源同位体二分性に基づく、原始太陽系円盤モデル(Kruijer et al., 2017, PNAS, 114, 6712-6716を改変)。これまでの研究から、太陽系が形成してから約100万年後までには、原始木星よりも内側の領域(地球型惑星が形成された領域)には、非炭素質型物質が卓越していたと考えられている。本研究では、この領域における微惑星形成過程において、急加熱された、溶融したカンラン石に富むコンドリュール、蒸発した塵、および初生ガスが反応することにより、よりケイ素に富むコンドリュールが形成され、これらの集積により、地球型惑星の起源となった微惑星が形成されたとのモデルを提案した(下図)。

これまで、多くの隕石の同位体組成分析結果から、地球型惑星は、原始太陽系円盤の木星よりも内側で形成された、非炭素質型物質を主な材料として形成されたと考えられてきました(図1)。特に、エンスタタイト・コンドライトと呼ばれる非炭素質型始原的隕石は、酸素同位体組成や多くの元素の核合成起源同位体異常値10)が地球や月のそれらと一致するため、地球と月を形成した主要な材料物質と考えられてきました。一方で、ユレイライト隕石母天体に代表される非炭素質型隕石の中でも、核合成起源同位体異常値が小さい組成を持った微惑星に、さまざまな割合で炭素質コンドライト隕石母天体が混合した結果、地球型惑星が形成されたというモデルも提案されてきました。.

しかしながら、これらのモデルを説明する上で、地球の主要な成分であるケイ素の同位体組成(δ30Si値)が、エンスタタイト・コンドライト、ユレイライト、炭素質コンドライトのいずれよりも高いこと、ユレイライトや炭素質コンドライトの酸素同位体組成(Δ17O値)が地球のそれより小さいこと、などがこれらのモデルの矛盾点として存在していました。また、地球のケイ素の大部分は岩石層(マントルと地殻)に含まれていますが、地球の岩石層のケイ素の存在比(例えば、ケイ素/マグネシウム)が、太陽系全体の存在比11)より低いことも説明できていませんでした。これらの理由を説明するためのモデルとして、微惑星の衝突によるケイ素の蒸発や、地球の金属核とマントルが分離する際に大量のケイ素が金属核に分配されたことにより、地球の岩石相のケイ素同位体組成(δ30Si値)が高くなり、ケイ素/マグネシウム比が低下した―などが考えられてきましたが、いずれも決め手になっておらず、新たな研究が求められていました。

<発表内容>

地球型惑星や小惑星は金属や岩石によって構成され、その約半分は、ケイ素と酸素でできています。したがって、隕石や地球に含まれるケイ素と酸素の物質進化過程を解明することは、地球型惑星の形成と化学組成を推定する上で重要な手がかりとなります。

私たちは前項の謎を解明するため、太陽系形成初期に原始太陽系円盤の内側で形成された、地球の起源物質を代表する始原的隕石であるエンスタタイト・コンドライトから分離したコンドリュールと、非炭素質型惑星物質の同位体組成端成分であり、その母天体が太陽系形成後の約10万年後に形成したユレイライト隕石について、酸素・ケイ素同位体組成を分析し、その関係性を探りました。

図2:エンスタタイト・コンドライト隕石に含まれるコンドリュールの酸素同位体比とケイ素同位体比の関係(赤丸)。Δ17O (‰)は、地球岩石との17O/16Oのずれを、δ3030Si (‰)は、標準試料の3030Si/28Siとのずれをそれぞれ千分率で表したもの。黄色で囲った領域は、地球のマントルと月、火星由来隕石、小惑星ベスタ由来隕石(HED隕石)、アングライト隕石、ブラチナイト隕石、オーブライト隕石の酸素およびケイ素同位体組成を示す。灰色で囲われた領域は、エンスタタイト・コンドライト隕石の組成範囲。青破線は、計算によって求められた、原始太陽系円盤内で、それぞれのコンドリュールが形成された環境における、塵-ガスの混合物のマグネシウム/ケイ素モル比。

分析の結果、ユレイライト隕石は幅広い酸素同位体組成を有する一方で、ケイ素同位体は均質であることが分かりました。これは、ユレイライト隕石母天体が集積した太陽系形成後の約10万年後には、原始太陽系円盤の内側には酸素同位体の不均質性が存在したものの、すでにケイ素同位体については均質化が達成されていた事を示します。これに対し、エンスタタイト・コンドライト中のコンドリュールは、地球、月、火星、および非炭素質型小惑星起源隕石と調和的な、幅広いケイ素同位体組成を示し、さらに、酸素同位体組成と緩やかな負の相関性を持つことを発見しました(図2)。

このケイ素と酸素同位体の関係性について、私たちは「原始太陽系円盤から早期に形成した、鉄とニッケルを主成分とする金属、およびマグネシウムとケイ素を主成分とするケイ酸塩鉱物によって構成される塵が、瞬間的な加熱によって蒸発した。この蒸発したガスと、溶融したケイ酸塩メルトとの反応によって形成された」と結論づけています(図2)。

この反応が生じた際の塵とガス全体のマグネシウム/ケイ素比と酸素・ケイ素同位体組成は、星雲内での塵/ガス比や、塵に含まれる金属/ケイ酸塩鉱物比によって決定づけられ、惑星起源物質や微惑星の化学組成は、円盤内部でこれらの反応が生じた場の組成を反映しているものと考えられます。すなわち、始原的隕石の組成が必ずしも惑星の化学組成をそのまま反映しているものではないといえます。

<社会的な意義>

地球型惑星や小惑星は金属や岩石によって構成され、その約半分は、ケイ素と酸素でできています。したがって、隕石や地球に含まれるケイ素と酸素の物質進化過程を解明することは、地球型惑星の形成と化学組成を推定する上で重要な手がかりとなります。

地球型惑星の化学組成は、太陽系初期に形成された、始原的な微惑星のかけらとされるコンドライト隕石の組成をもとに推定されてきました。とりわけ、地球の岩石と最も似通った同位体組成を持つエンスタタイト・コンドライトは、地球の起源物質の大部分を占めるものであると考えられています。しかしながら、エンスタタイト・コンドライト起源モデルに基づくと、地球の核には、20~30%のケイ素が含まれることになり、これは非現実的な値であるとされてきました。一方で、炭素、窒素、水などの生命に必要な元素を多く含む、炭素質コンドライトを起源物質とした場合、地球の他の元素の同位体組成を説明することができませんでした。

我々の研究結果は、地球型惑星の化学組成が、円盤内の起源物質形成場における塵およびガス成分によって反映されており、始原的隕石の組成が必ずしも惑星の化学組成をそのまま反映しているものではないことを示しており、このことは、地球型惑星の化学組成の再検討が必要であることを示唆しています。

References: