English | 日本語

中国地方の火山その活動の歴史とメカニズム


ポイント

発表者

タイ・チュオン・グエン(岡山大学PML)
北川 宙(岡山大学PML)
ピネダ・ベラスコ・イバン(岡山大学PML)
中村 栄三(岡山大学PML)

概要

日本は火山大国です.これは日本が複数のプレートの境目付近に立地しているからです. プレートとはマントルに浮かぶ岩板のことで,これは大陸プレートと海洋プレートに二分されます.後者は前者より重いため,両者が衝突すると後者が前者の下に潜り込みます.そして,マントルの高圧高温条件によって密度の大きい物質に変化し,さらに深部へと沈み込んで行きます.大陸プレートと沈み込んだ海洋プレートに挟まれた楔形の部分はマントルウェッジと呼ばれており,ここで生じたマグマが火山活動の源になります.日本列島はユーラシア大陸プレートの縁に位置しており,二つの海洋プレート,太平洋プレートとフィリピン海プレートに沈み込まれています(図1).

九州地方と中国地方の地下には同じ海洋プレート(フィリピン海プレート)が沈み込んでいますが,この二地域の火山活動は対照的です.前者は日本に111ある活火山のうちの17を含み,多くは噴火活動を伴います.一方,後者は活火山をわずか2つ含みますが,それらですら過去四千年の間,噴火していません.ただし,一万年前には大山(鳥取),三瓶山(島根),萩の笠山(山口),神鍋山(兵庫)が活動していました.さらに,世羅の三大明神山(広島)や荒戸山(岡山)は八百万年前,玄武洞(兵庫)は百六十万年前,大根島(島根)は十万年前の火山活動の名残です.

 
図 1 西南日本のプレート配置と火山岩の分布.(a) 西南日本に沈み込むフィリピン海プレートの様子.PHS,フィリピン海プレート;PAC,太平洋プレート;EUR,ユーラシア大陸プレート.数字を付した曲線は,沈み込んだフィリピン海プレート上面の等深線(km).日本海側で等深線が不連続になっており,フィリピン海プレートが裂けていることを示している.(b) 中国地方における新生代後期火山岩(黒色,玄武岩;灰色,安山岩とデイサイト)と瀬戸内火山帯における中新世中期の高マグネシウム安山岩(白色の星印)の分布.22地域で300試料を採取し,175試料の分析を実施した.(c) 中国地方における新生代後期火山岩の年代.約四百万年前を境に,次第に衰退しつつあった火山活動が,山陰地方全域に渡って活発化したことがわかる.

九州地方と中国地方では,フィリピン海プレートの沈み込む角度が異なります(図1).九州地方では,火山が多く認められる東北日本などと同じくらい高角ですが,中国地方では低角で,日本には他に例がありません.海洋プレートの低角沈み込みと火山活動の盛衰の因果関係を解明するため,私たちは総合化学解析法および年代測定法をマグマ由来の岩石に適用し,マグマが生じた場所の圧力温度条件(図2)とその時間変化を調べました.その結果、次のことが明らかになりました(図3).

現在,フィリピン海プレートの裂け目は日本海沿岸の益田・下関間(100 km)と米子・鳥取間(80km)の二地域にあります.将来,この裂け目が火山活動の引き金になることは否定できませんが,これから百万年の間に中国地方全域に及ぶような火山活動が再発する可能性は極めて低いでしょう.フィリピン海プレートの低角な沈み込みが百万年以上続くからです.

 
図2 玄武岩マグマの生成圧力温度条件.青と赤の線は,各マグマタイプ(赤,OIB,青,IAB)の親マグマ生成条件の推定値に基づく固体かんらん岩の断熱上昇経路を示す.OIBタイプの親マグマ生成条件は,中新世中期以降一貫して,IABタイプのそれよりも高圧高温であり,OIBタイプの親マグマ生成が高温のマントル物質の流入によることを示す.
 
図3 中国地方における火山活動の変遷と沈み込む海洋プレートの様子.(a) 千二百万–八百万年前.フィリピン海プレートは高角で沈み込んでおり,水主体の流体 (aqueous fluid) を放出していた.高温のマントル物質はフィリピン海プレートの上に流入し,中国地方全域で玄武岩 (OIB) マグマを生じていた.(b) 八百万–四百万年前.海溝接合部(TTT)が北東に移動し,中国地方の下に沈み込む太平洋プレートの深度が増した.高温のマントル物質が太平洋プレートの上にも流入するようになり,そこに沈み込んでくるフィリピン海プレートと衝突した.その結果,フィリピン海プレートの先端部が裂け,部分溶融によるメルト (silicate melt) を生じた.(c) 四百万年前–現在.高温のマントル上昇流がフィリピン海プレートの下に流入して,プレートの沈み込み角度をさらに低角にし,プレート先端部の裂け目を広げた.山陰地域では,高温のマントル上昇流が玄武岩 (OIB) マグマを生じる傍ら,フィリピン海プレート自身の溶融も進んで,アダカイト (ADK) マグマが生じた.一方で,狭くなった山陽地域の下のマントルウェッジには,高温のマントル物質が流入できなくなり,火山活動が終息した.

論文情報